昭和30年12月14日 衆議院 本会議

[009]
自由民主党 田口長治郎
しかも、今日まで帰還した者の話を聞きますと、日本人収容所は、バラック建、無電灯、板の間8畳に20人ないし21人を収容しておる。主食は、丸麦に大豆、それに形ばかりの米、副食物は塩汁に梅ぼし1個、かような実情でございまして、収容されておる者は極度の栄養失調に陥っておるのでございます。病人が出ましても医療の手締は講ぜられず、お前たちは死んでも仕方がないのだと放言されておるような状態でございまして、厳寒に向うこの冬を考えますときに、まことに暗たんたるものがある次第でございます。この冬生命の保持ができない者が出るようになりますれば、われわれは国民に対して相済まぬと思うのでございます。

これに反しまして、韓国密入国者を収容しておりますところのわが大村収容所はいかがでございましょうか。建物はコンクリート2階建、採光、通風に留意された10畳敷に10人ずつを収容しており、各部屋には洗面所、水洗便所がおのおのついており、共同洗たく場、浴場、病棟はもちろん、娯楽室にはピンポン、碁、将棋、図書、野球、バレーボール等の用具が完備いたしまして、子供用といたしましてはブランコ、すべり台、砂場があります。

食事は、特に韓国人の嗜好を勘案いたしまして、1日1人原料代だけで75円ないし80円、これでは日本人の中流以上の生活ではありませんか。

これに対しまして、正当に仕事をしておる日本の船員が不法に拿捕抑留され、父や兄をとられた留守家族は一家の支柱を失って、家には女と年寄りと子供と、それだけを残して路頭に迷うておる。漁船乗組員給与保険の制度はありますが、4年にわたる職場を失った漁業者には、その制度のあることは知っておりますけれども、保険料を持っていないため、また保険料が高いために加入していない者が、651名のうちで177人もあります。加入しておる者も、ごくわずかの金額の加入でございまして、家の支柱を失ってはとうてい生活をささえることができない者が多数にあるのであります。先日の農林水産委員会に参考人として呼びました留守家族の一婦人は、ちり紙を買う金もなくなりました、どうか助けて下さい、かように訴えておるのでございます。全く悲惨そのものであります。

一方においては、在日韓国人70万人のために、われわれは国民の血税を多額に支出しております。生活保護費に19億7000万円、失業対策費に3億6000万円、小中学校教育費に8億3000万円、救らい費に5000万円、刑務所費に2億1000万円、計34億2000万円を支払っておるのであります。

〔「簡単々々」と呼び、その他発言する者あり〕

[010]
議長 益谷秀次
静粛に願います。

[011]
自由民主党 田口長治郎
私は、韓国における抑留者の処遇につきましては、われわれの手が届かなかった点もありますけれども、密入国した韓国人が中流以上の生活を楽しみ、また在日韓国人のため34億2000万円も支出いたしまして、日本人が、食糧増産のため、あるいは国策のために、しかも不法に拿捕せられましたその留守家族の日本人が、日本において路頭に迷わなければならぬことに対しましては、どうしても理屈もわかりませんし、気持も割り切れない、むしろ義憤に燃えておる一人でございます。

私は、あれを思い、これを思い――大よそ、日韓間の懸案といたしましては、基本問題である財産請求権、朝鮮人の処遇、船舶等の諸問題がありますが、これらはいずれも戦争処理の問題であるばかりでなく、現在日韓間には正常なる国交関係はありませんが、政治的にも経済的にも相当交流が行われておる。従って、このまま放置されて困るのはひとり日本の漁業者のみで、……
〔発言する者多し〕

[012]
議長 益谷秀次
田口君、簡単に願います。

[013]
自由民主党 田口長治郎
日韓双方とも、特に韓国側ほとんど痛痒を感じないありさまで、わが国民一般の関心もきわめて低いのではないかと思うのであります。日韓問題は、あげて日本の漁業者にしわ寄せされておる現状であり、ここに問題の根本的解決をはばむ最大の原因があると思うのであります。しかしながら、この人道問題と日本の存亡に関する問題を漁場の片すみのできごととして黙視することは断じて許されないのでありまして、これこそ何といたしましても解決をしなければならぬ緊急要務でなければならぬと考えるのであります。

政府は、あらためて再認識し、急速に抑留船員、漁船の即時返還を実現するとともに、被災漁業者及び留守家族に対する援護に万全を期するとともに、新たなる決意をもって国際世論に訴え、あらゆる外交上の措置を講じて日韓問題の根本的解決をはかるべきであります。

特に、当面する漁業問題につきましては、必要に応じ海上自衛行動をもあわせ考慮し、もって公海における漁船の安全操業を確保すべきであります。

私は、以上の観点からいたしまして、ただいま上程されておる決議案に賛成の意を表する次第でございます。(拍手)